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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)1818号 判決

原告 郵政省共済組合

被告 三進薬業株式会社 外二名

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、第一次及び第二次の請求として、「被告三進薬業株式会社(以下被告三進という。)は、原告に対し、五百九十六万六千二百十八円と三百七十五万七千百九十円に対する昭和二十四年五月二十三日から同二十五年十月二十四日まで、三百四十四万二千七百円に対する同年同月二十五日から、二百五十二万三千五百円に対する同二十四年九月二日から各完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

被告小堺薬品産業株式会社(以下被告小堺という。)は原告に対し、百八十五万八千六百八十五円と、二百七十九万九千五百二十五円に対する昭和二十四年八月一日から同二十五年十月六日まで、八十五万九千二十五円に対する同年十月七日から、五十九万九千六百六十円に対する同二十四年七月二十七日から、四十万円に対する同年九月十五日から各完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

被告大塚順三郎(以下被告大塚という。)は、原告に対し、三十一万三千五百三十円と四十六万八千六百三十円に対する昭和二十四年七月十八日から同二十五年九月二十九日まで、三十万三千五百三十円に対する同二十五年九月三十日から完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、

第三次の請求として、「被告三進は、原告に対し、五百九十六万六千二百十八円と六百二十八万七百八円に対する昭和二十五年九月七日から同年十月二十四日まで、五百九十六万六千二百十八円に対する同年十月二十五日から完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

被告小堺は、原告に対し、百八十五万八千六百八十五円と三百七十九万九千百八十五円に対する昭和二十五年九月七日から同年十月六日まで、百八十五万八千六百八十五円に対する同年十月七日から同年十月六日まで、百八十五万八千六百八十五円に対する同年十月七日から完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

被告大塚は原告に対し、三十一万三千五百三十円と四十六万八千六百三十円に対する昭和二十五年九月七日から同月二十九日まで、三十一万三千五百三十円に対する同年九月三十日から完済までいずれも年六分の割合による金員とを支払え。

訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、その請求原因として、

(第一次的請求原因)

一、昭和二十四年二、三月頃東京逓信局保健課医務係(昭和二十四年六月一日以降東京郵政局人事部保健課医務施設係と改称、以下本文においては、便宣右改称前の名称を使用することとし、東京逓信局は逓信局、東京逓信局保健課は保健課という。)に勤務し、原告(昭和二十四年六月一日以前は逓信省共済組合と称していた。)の事務を担当していた逓信技官訴外二階堂太郎(以下二階堂という。)は、原告が、被告らから薬品を購入したと称しその代金支払のため原告の支出官である逓信局長に立替払請求書を提出し下記支払金額に相当する振替小切手を受領し、これをもつて(1) 被告三進に対し(イ)昭和二十四年五月二十三日四百四万七千百九十円、(ロ)同年九月二日二百五十二万三千五百十八円計六百五十七万七百八円を、(2) 被告小堺に対し(イ)同年七月二十七日五十九万九千六百六十円、(ロ)同年八月一日二百七十九万九千五百二十五円、(ハ)同年九月十五日四十万円計三百七十九万九千百八十五円を、(3) 被告大塚に対し同年七月十八日四十六万八千六百三十円を各支払つた(昭和二十三年七月一日から同二十四年四月十二日まで準用されていた逓信省共済組合部局計理手続「昭和十五年十二月二十九日健第二〇六九号」第三条には支出科目として「療養費………雑費、立替金」と規定し、同第十五条には「医薬品中央配給統制組合ヨリ薬剤材料等ノ配給ヲ受クルトキ又受ケタルトキハソノ代金ハ立替金トシテ払出手続ヲナスベシ、薬局ヲ組合ニ於テ経営スル診療所ニ対シ配給薬剤材料等ヲ配分シタルトキハ立替金ノ払出訂正ト共ニ診療所支出金トシテ支払手続ヲナスベシ」と規定されていたので、立替金の費目が廃止された後も慣例として立替金の費目から支出する形式が用いられていた。二階堂がなした前掲本文記載の支出も、右形式に従つてなされたものであるが、正式手続としては診療所支出金の費目から支出するのが正しい。しかし、この種目も昭和二十四年三月一日以降廃止と同様の取扱を受けた原告において薬品等の購入をすることができなくなつた。)。

二、しかしながら、当時原告が右のような薬品を購入する場合は、その正規の手続として、次の過程を終ることを要した。「昭和二十四年二月頃診療用(原告組合の事業用)の医薬品等の購入するに当つては、国家公務員共済組合法(昭和二十三年法律第六九号)、地方郵政監察局及び地方郵政局組織規程(昭和二十四年六月十日公達第五号)、同分掌規程(昭和二十四年七月十六日公達第十九号)、逓信局共済組合運営規則、同組合部局事務規定(ともに昭和二十四年四月十三日公布同二十三年七月一日に遡及適用)、昭和二十四年五月二十一日逓厚第六八九号逓信省労務局長部内一般長宛通牒「国家公務員共済組合法の施行について」等の法令、通達に則つて(被告らの薬品納入ならびにこれに対する代金支払時期は昭和二十四年二月から三月にかけてのことであつて、本文記載の根拠法令に若干の違いはあるが、その実質は同じであるから便宜これに従つて述べる。)、原告代表者からその有する権限の委任を受けた逓信局厚生課長、同課共済係長、同係員、保健課長、同課医務係長及び同係員が逓信病院又は逓信診察所で施薬する薬品の購入ならびに購入代金の支払権限を有する者として、保健課医務係員(原告の補助機関)は薬品業者から薬品価格の見積書を提出させこれを保健課長(原告の補助機関)が検討適正と認定したならば、医薬品及び衛生材料購入調書兼受入伝票によつて右薬品購入を決定し、薬品業者に現品を納入させ、検収したうえ、その提出した代金請求書を立替払請求書に添付して医薬品材料購入代金請求書送付簿とともに厚生課長(原告の補助機関)に送付し、同課長は右代金請求手続が正規の手続を経ているものと認めたならば、原告の出納命令官として、出納員(同課共済係長)に命令して代金払出伝票を交付のうえ、代金を薬品業者に支払うよう取り計う。そこで出納員たる共済係長は右課長の命令に従つて振替小切手を振出し、これを現金化したうえ、右業者にその受領印を徴して支払う。」。

三、しかるに本件の場合は、右正規の手続を経由しないで、次のような手続をもつてなされた。「二階堂は訴外肥田木繁信(当時厚生課共済係長であつて、原告の支出官である逓信局長に代つて振替小切手を発行する権限を有していた原告の出納員)と相通じて、単に被告から見積書及び請求書(甲第二号証の一から同第八号証)だけを徴し、医薬品及び衛生材料購入調書兼受入伝票(甲第十号証の一)所定の様式による関係係員の押印を受けず、しかも上司の決裁を受けないで契約書を作成することもなく、また実際には未だ右請求書金額に相当する薬品の納入がないのに拘わらず、これらの事実を知り、また昭和二十四年一月二十七日逓健第四六号逓信省労務局長、総務局長連名逓信局長宛通達「共済組合経営の薬局を国費経営に切り替えについて」(以下逓健第四六号通達という。)によつて、本件のような診療所用薬品の購入は国費以外の資金をもつて購入することを禁止され、規定上原告としては、右薬品を購入する代金支出の道がなかつたにかかわらず、肥田木に薬品材料購入代金請求書送付簿(甲第十二号証)による所定の送付手続をとらないで、右見積書、請求書を直接手渡し、右肥田木は、敢えて部下職員に命じて療養の給付(社会保険診療報酬支払基金に対する支払のための支出科目)の支出科目名義をもつて、右通達を無視し、払出伝票(甲第十三号証の一から六)を作成させ(この伝票には検査印がない。)前掲振替小切手に振出し、これを被告らに薬品購入名義をもつて不正に支出した。」

以上のように、本件の場合は、前掲正規の手続による場合に対比すると、被告らと原告との間に薬品納入契約があつたということはできない。

四、しかして、被告らは、被告に対し従前から正規の手続を経て薬品を納入した経験を有し、納入薬品の代金を受領の際は前掲薬品材料購入代金請求書送付簿の現金受印欄に受領印を押捺して現金を受領していたのに拘わらず、本件の場合はこれが押印をしないのみならず、被告ら提出の前掲各請求書の日付を事実上の提出日から相当の期間遡及する等出鱈目の記載をなし薬品代金相当の金額を受領しながら、二階堂からこれが納入薬品の保管方を依頼されたと称し、該薬品の保管証を同人に提出しているが、右保管証の提出は万一の場合備えての作為に出たものである。

五、以上の経緯からみて、被告らは右二階堂、肥田木と共謀し、恰も表面上前掲薬品納入契約があつたかの如き虚偽の事実を構え、原告から前掲振替小切手額面金額を受領したものである。すなわち、右共謀の事実は

(一)(1)  昭和二十四年三月一日以降国費以外の薬品購入は禁止されているのに、これに反し特段の理由がないのに拘わらず、敢えて購入する手段に出ている事実

(2)  上司の決裁を終ていない事実

(3)  納入代金の受領印ないし受領証を取つていない事実

(4)  購入薬品の検収を経ていない事実

(5)  統制薬品を購入する手段として見積書及び請求書の表面上の薬品名の記載を統制除外薬品とすることを常識とするに反して事実は反対となつている事実

(6)  総体的にみて、公務員一般の立場から判断して二階堂、肥田木の本件事案におけるような行為は一般常識からして正常のものと考えられないのに、その行為を肯定するに足る特段の事由のない事実

(二)(1)  被告らは原告に対し数度に亘り、正規の手続によつて薬品を納入した経験を有しているのに納品の検収も経ていないし、又薬品材料購入代金請求書送付簿の書式による受領印を押捺していない事実

(2)  被告らは原告に対し昭和二十四年三、四月頃薬品を購入したと称しておりながら、その代金の支払いが数ケ月遅延しているに拘わらず、これに対し何等苦情を申し出ていない事実

(3)  本件不正事件を発見された当時被告らにおいて保管していると称していた薬品が皆無であつた事実

(4)  被告ら提出の見積書請求書の日付が出鱈目であり、また各二種類(統制品とそうでないもの。)に分離して発行している事実

を綜合して明らかであるが、仮りに共謀の事実が認められないとしても、被告らが一般人の用いる程度の注意を払つていたならば二階堂肥田木がその権限を濫用して原告に対し不正行為を働いていたことを発見できたのに拘わらず、その注意を怠つたのであるから被告らに過失がある。

六、以上の次第であるから、原告は被告らの右不法行為によつて前掲振替小切手額面金額と同額の損害を蒙つたので、被告らに対し右金員の賠償を求めるものであるが、前掲不法行為は、昭和二十五年六月頃逓信局人事部厚生課長によつて発見され、同課長が人事部長と協議のうえ、これが回収をはかるため、被告三進の取締役橋野隆次、被告小堺の営業部長杉本某及び被告大塚を召致して前記損害の弁償方を求めたところ、(1) 被告三進は(イ)昭和二十五年十月二十五日四十万三千四百七十八円、(ロ)同年十一月二十日十万四千三百八十四円五十銭計五十万七千八百六十二円五十銭(2) 被告小堺は、(イ)昭和二十五年十月七日百二十三万三千百円、(ロ)同年十一月十六日百八万九千円、(ハ)同年十二月九日四十七万八千円計二百八十万百円、(3) 被告大塚は、(イ)昭和二十五年九月三十日二十二万五千円、(ロ)同二十六年一月十六日二万百円計二十四万五千百円相当の薬品をもつて代物弁済したと称する。しかしながら以上の薬品の代価はいずれも被告らの言値であつて、この言値は妥当でないところ本件における鑑定人小森弘太郎の鑑定の結果によると、(1) 被告三進の納入した薬品は三十一万四千四百九十円、(2) 被告小堺の納入した薬品は百九十四万五百円、(3) 被告大塚の納入した薬品は十五万五千百円が相当であることが判明した。

従つて、原告は、(1) 被告三進が原告から前記のように昭和二十四年五月二十三日四百四万七千百九十円、同年九月二日二百五十二万三千五百十八円計六百五十七万七百八円を不正受領しているが、右金額から右五月二十三日までに納入した薬品の代価二十九万円と右鑑定価格三十一万四千四百九十円とを差引いた五百九十六万六千二百十八円、(2) 被告小堺が原告から前記のように昭和二十四年七月二十七日五十九万九千六百六十円、同年八月一日二百七十九万九千五百二十五円、同年九月十五日四十万円計三百七十九万九千百八十五円を不正受領しているので右金額から右鑑定価格百九十四万五百円を差引いた百八十五万八千六百八十五円、(3) 被告大塚が前記のように原告から昭和二十四年七月十八日四十六万八千六百三十円を不正受領しているので、右金額から右鑑定価額十五万五千百円を差引いた三十一万三千五百三十円と同額の損害を被告らから受けたものである。

よつて、原告は、(1) 被告三進に対し五百九十六万六千二百十八円と三百七十五万七千百九十円(昭和二十四年五月二十三日受領した四百四万七千百九十円から前記二十九万円を差引いた残額)に対する昭和二十四年五月二十三日から同二十五年十月二十四日まで、三百四十四万二千七百円(右三百七十五万七千百九十円から右鑑定価額三十一万四千四百九十円を差引いた残額)に対する昭和二十五年十月二十五日(計算の便宜上同日に一度に納入したものとした)から完済まで、ならびに二百五十二万三千五百十八円に対する右金員受領の日である昭和二十四年九月二日から完済までいずれも商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求め、(2) 被告小堺に対し百八十五万八千六百八十五円と二百七十九万九千五百二十五円に対する右金額受領の日である昭和二十四年八月一日から昭和二十五年十月六日まで、八十五万九千二十五円(右二百七十九万九千五百二十五円から右鑑定価額百九十四万五百円を差引いた残額)に対する昭和二十五年十日七日(計算の便宜上同日に一度に金納入されたものとした。)から完済まで、ならびに五十九万九千六百六十円(昭和二十四年七月二十七日受領)、四十万円(同年九月十五日受領)に対する右各金員受領の日から完済までいずれも商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求める。(3) 被告大塚に対し三十一万三千五百三十円と四十六万八千六百三十円に対する右金員受領の日である昭和二十四年七月十八日から同二十五年九月二十九日まで、三十一万三千五百三十円(右四十六万八千六百三十円から右鑑定価格十五万五千百円を差引いた残額)に対する昭和二十五年九月三十日(計算の便宜上同日に納入されたものとした。)から完済までいずれも商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求める。

(第二次的請求原因)

仮りに、原告が被告らに支払つた前掲振替小切手額面金額に相当する薬品納入契約が、その頃原告と被告らとの間に(被告らが本件取引に当つて国の機関である逓信局と取引しているとの認識のみを有し、原告の機関としての同局と取引をしているのではないと認識していたとすれば、被告らは本件薬品納入契約の締結に当つてその相手方に関し錯誤を来したことになるが、これは未だいわゆる法律行為の要素の錯誤とはいえない。仮りに要素の錯誤であるとしても被告らは重大なる過失を侵しているのであるから原告が本件取引の相手方であることを否認することはできない。)締結され、被告らが二階堂から納入薬品の保管を命ぜられ、被告らにその間不法行為の責任がないとしても、被告らは原告が右契約によりその所有権を取得した右薬品を保管中、原告の許可を受けないで勝手に第三者に売却処分し、原告の右薬品に対する所有権を侵害し、右薬品代価相当の損害を与えたものであるから、第一次の請求に理由がないならば第二次の請求として原告は被告らに対し右損害額につき被告らの前掲弁済額を差引いた第一次的請求原因において述べたとおりの金額とその遅延損害金の支払を求める。

(第三次的請求原因)

仮りに、被告らが主張するように本件薬品取引の相手方が国であるとするならば、本件薬品代金は原告から被告らに前掲振替小切手をもつて支払われていること前記のとおり明らかであるから、被告らは法律上の原因がないのに原告から前記金額の支払を受けたことになる。しかして、昭和二十五年九月七日原告の監督責任者である逓信局人事部長から被告らは右受領した金員の返還を要求されているのであるから、この時以後被告らは原告に対し次に記載する金額に遅延損害金を附して返還する義務がある。すなわち(1) 被告三進は原告から前記のように六百五十七万七百八円の交附を受け、昭和二十四年五月二十三日までに二十九万円及び同二十五年十月二十五日以降二回に亘り三十一万四千四百九十円(鑑定価額)計六十万四百九十円相当の薬品を原告に返還しているので、右六百五十七万七百八円からこの金額を差引いた五百九十六万六千二百十八円を原告に返還する義務がある。よつて原告は被告三進に対し五百九十六万六千二百十八円と前記六百二十八万七百八円(六百五十七万七百八円から二十九万円を差引いた残額)に対する昭和二十五年九月七日から同年十月二十四日まで、五百九十六万六千二百十八円に対する昭和二十五年十月二十五日から完済までいずれも商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求める。(2) 被告小堺は原告から前記のように三百七十九万九千百八十五円の交付を受け、昭和二十五年十月七日以降三回に亘り計百九十四万五百円(鑑定価額)相当の薬品を原告に返還しているので、右三百七十九万九千百八十円からこの金額を差引いた百八十五万八千六百八十五円を原告に返還する義務がある。よつて、原告は被告小堺に対し百八十五万八千六百八十五円と右三百七十九万九千百八十五円に対する昭和二十五年九月七日から同年十月六日まで、百八十五万八千六百八十五円に対する同年十月七日から完済までいずれも商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求める。(3) 被告大塚は原告から前記のように四十六万八千六百三十円の交付を受け、昭和二十五年九月三十日以降二回に亘り十五万五千百円(鑑定価格)相当の薬品を原告に返還しているので、右四十六万八千六百三十円からこの金額を差引いた三十一万三千五百三十円を原告に返還する義務がある。よつて、原告は被告大塚に対し三十一万三千五百三十円と右四十六万八千六百三十円に対する昭和二十五年九月七日から同月二十九日まで、三十一万三千五百三十円に対する同年九月三十日から完済までいずれも商法所定の年六分の遅延損害金との支払を求める。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、本案前の答弁として「原告の第一次的請求原因である不法行為にもとずく損害賠償請求を却下する。」との判決を求め、その理由として「右訴は原告主張の架空の薬品納入契約に際し原告事務担当者と被告らとの間に共謀の事実があることを前提とするものであるが、被告らは保健課すなわち国と取引したことはあるが原告とは何の取引関係もない。しかして保健課は原告と同一性はないから原告は当事者たる適格を欠いている」と述べ、被告小堺、同大塚訴訟代理人は更にこの点に関し「本件薬品納入契約が保健課と被告小堺との間に成立したのは昭和二十四年五月頃であるが、当時原告は本件のような薬品購入を禁止されていたと自認するところであるから原告には本件薬品納入契約当時取引当事者たる資格を喪失しており、本件薬品の購入者も代金支弁者も逓信局であつたので、この点からみても原告は当事者適格を欠いている。」と述べ、

原告訴訟代理人は右抗弁に対し「被告ら主張の保健課と原告とが同一性がないことは認めるが一、不法行為に因つて損害を蒙つた者は、加害者が何人に加害の意図を有していたかを問うことなく、加害者に対しその損害の賠償を求めることができる。二、仮りに被告らとの間に薬品購入契約があつたとしても、これが契約の相手方は国ではあり得ない、すなわち行政官庁による国の法律行為(公、私法行為を問わず。)は、すべて法令の授権にもとずいて国の機関によつて行われることは明白な事実(国家行政組織法第四条)であつて、被告らが主張する保健課には国の必要とする資材を購入する権限は委任されていない「郵政省設置法(昭和二十三年法律第二四四号)第四条から第六条、第十二条、郵政省組織規程(昭和二十四年同省令第一号)第六十条、第六十二条、地方郵政監察局及び地方郵政組織規程(昭和二十四年公達第五号)第十六条、第十八条、会計法(昭和二十二年法律第三五号)第十一条、第十三条、同条の二、予算決算及び会計令(昭和二十二年勅令第一六五号)第六十八条、第七十条、第七十五条、第九十六条、郵政事業特別会計規程(昭和二十四年公達第四五号)第二編第二章第三節第十四条、同第四節第三十一条、第三編第三章第五条参照」前記各法令によると国が必要とする物品を購入する場合の契約取扱機関は逓信局においては同局資材部購買課であり、また対外的法律行為者は支出負担行為担当官である逓信局長ならびに小切手を振出す地位にある同局経理部長であつて被告らの主張する保健課ではあり得ない。そして物品購入契約をするには逓信局長は認証官である経理部長の認証を受け、しかる後契約が三十万円以上に上る場合には契約書を作成し、これが副本一通を契約の相手方に渡すのであつて、相手方は契約に定められた納期までに物品を納入し、検査を受けた後、所定の手続を経て支出官である経理部長名義で発行される日本銀行宛小切手を受領するわけである。右事項のうち官庁内部のみで取り運ばれる行為すなわち認証行為の如きは契約の相手方には不明な場合が多いと考えられるが、契約書の作成、その副本の受領所定納期に納入し、検査を受け、しかる後所定手続を経て経理部において支出官発行の小切手を受領することは被告らの容易に知り得るところである。三、被告三進は国との間に数度に亘つて取引をしており、被告小堺は昭和二十四年九月十九日付で国と取引をしておるので、被告らは前記のように国を相手方とする場合と原告を相手方とする場合とでは見積書の提出先、見積書様式契約書又は注文伝票によること、代金受領について小切手の種類発行名義人、受領場所等に差異あることを既に了知している筈である。従つて被告らは前掲の薬品納入契約の相手方が国でないことは充分承知しているのに本件薬品納入契約の相手方が国であることを前提として原告と国との間に同一性がないとして原告の当事者適格を否認することは不当である。」と答え、

被告小堺同大塚訴訟代理人は原告の右答弁に対し「原告は保健課と原告とは同一性を欠いていることを認めている。しかるに、原告は被告小堺、同大塚に本件取引関係外の原告に加害行為があるとして不法行為にもとずく損害賠償請求をしているが、本件薬品納入契約につき被告小堺同大塚は逓信局に対し加害の故意もしくは過失はないのであつて契約当事者として逓信局が如何なる手段により現金を入手し、被告小堺同大塚に交付したかは関知せず、逓信局との間の契約にもとずいて商品代金として現金を同局から受領したにすぎない。」と述べた。

被告三進訴訟代理人は本案前の陳述として「第一次的請求原因による訴と第二次的請求原因による訴の追加的変更は許さない。」との決定を求め、その理由として「原告は初め本件薬品の取引自体にもとずく被告三進の不法行為によつて原告主張の前掲振替小切手額面金額と同額の損害を受けたとの事実にもとずいて、請求趣旨記載の金額とこれに対する同記載の遅延損害金の支払を求めていたが、昭和二十八年四月四日の本件口頭弁論期日に、被告三進が右小切手金に相当する原告所有の薬品を保管中不法にこれを売却処分した不法行為によつてその所有権を侵害した事実にもとずいて前掲金員の支払を求めるに至つた。これは新たな請求原因を附加し、訴の変更をしたもので、しかも請求の基礎に変更があるから許さるべきでない。」と述べ、

本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の振替小切手金を受領したこと(但し、右小切手金は逓信局職員から受領したものである。)、昭和二十四年五月二十三日二十九万円相当の薬品を納入したこと(但し、右薬品は逓信局すなわち国に納入したものである。)、五十万七千八百六十二円五十銭相当の薬品を原告主張の日に納入したこと(但し、これは原告主張のように原告の受けた損害に対する代物弁済ではなく、契約にもとずいて逓信局に対する債務の履行として納入したものである。)原告主張の薬品が当時未納で、これに対し被告三進から保管証を差入れたこと(但し、逓信局職員の指示にもとずいてなしたものである。)、原告主張の見積書、請求書を提出し契約書は作成しなかつたこと(但し逓信局との関係においてなしたもの。)は、いずれも認めるが、二階堂、肥田木らが逓信局部内において如何なる法的根拠にもとずき、如何なる方法で右振替小切手に振出したかは知らない。その余の主張事実は否認する。

一(本件契約当事者について)(一)被告三進が昭和二十四年五月及び同年九月頃薬品納入契約をなした相手方は次の事実からみて原告ではなく、保健課すなわち国である。

(1)  被告三進は昭和二十二年七月頃から前記薬品納入契約を締結するまで逓信局すなわち国との間に三、四十回に亘り金額二千五、六百万円にのぼる薬品納入契約を締結し、これらがすべて約旨どおり履行され、前記薬品納入契約も右と全く同様な交渉経過をもつて締結されたこと

(2)  前記薬品納入契約に際して二階堂、肥田木から購入者は原告であるといわれたこともなく、また原告の名称を使用されたこともない。交渉はすべて国の事務を担当する保健課職員との間でなされたこと

(3)  前記薬品納入契約に関して被告三進から保健課に提出された書類すなわち請求書、陳情書、確認書、未納薬品納入予定三ケ年計画書、同五ケ年計画書の宛名はすべて逓信局となつており、同局の担当公務員は異議なくこれを受領していること

(4)  昭和二十四年三月一日以降は原告所用の薬品はすべて国費をもつて購入することに切替られていたこと

(二) 仮りに保健課には当時国の資材を購入する権限がなかつたとしても、本件契約は国にその効力が及ぶものである。すなわち保健課は地方郵政監察局及び地方郵政局分掌規程所定の医療施設の運営、管理等の権限を有しており、被告三進は保健課長らから前記薬品購入の申込を受けたものであつて、前掲(1) ないし(4) において述べた事情のもとに締結された薬品納入契約について、右公務員らに物品購入の権限があり、国との取引であると信ずるについて正当の理由があるといわなければならない。

(三) 仮りに本件取引の相手方が原告であつたとするならば、被告三進に法律行為の要素に錯誤があり、また原告主張のような重大な過失はないから本件契約は無効である。

二(第一次的請求原因について)(一)前述のように被告三進は前記薬品納入契約を逓信局すなわち国と締結したものであるが、仮りに右薬品納入契約に当り右公務員らが会計法令に違反の行為があつたとしても、それは、同局内部の問題であつて、被告三進とは何の関係もない。被告三進は前記薬品納入契約成立の際二十九万円相当の薬品を納入し、残余の薬品について当時保健課医務係納品検査員蔵舛幸平の要請によつて同人に保証を差入れ前記振替小切手金を受領したものであつて、その後保健課医務係長松永豊から未納薬品の納入方を請求されたが、事実上営業停止の状態になつたので、原告の主張する昭和二十五年十月二十五日四十万三千四百七十八円相当、同年十一月二十日十万四千三百八十四円五十銭相当の薬品を納入し、残余薬品の納入猶予の承認を右松永から得ている。そうして前掲薬品納入契約について原告主張のように契約書は作成されなかつたのであるが、右は担当公務員から契約書の作成を求められない以上、被告三進としては自ら進んで作成しないのは当然のことであつて、担当公務員が契約書を作成しなかつた理由の如何は被告三進の関知するところではない、現に官庁のする契約について契約書を作成しない場合があり得ることは予算、決算及び会計令第七十条第一項第五号の示すところである。

三(第二次的請求原因について)被告三進は前述のとおり本件薬品の保管を保健課担当公務員から依頼され、その後薬品の長期保管は倉庫の整理上困るうえ、効能を失うものも生ずるので再三に亘りその引取方を保健課に要求した結果前記蔵舛の承認を得て保管薬品を他に処分したものであつて、実際には納入するに際し、新品をもつて代替補充し、納入するのが当時の一般的取扱例であり、本件の場合もその取扱に従つたにすぎないもので、その間被告三進にはなんら故意、過失はない。

四(過失相殺について)以上仮りに理由がないとしても、原告は国の公務員である二階堂、肥田木らに対し、その事業の一部である薬品の購入事務を委任していたのであるから二階堂、肥田木らの原告主張の不正行為は原告内部の事務処理が乱脈を極めていたため発生したものであつて、原告が右二階堂、肥田木らに対する選任監督についての注意を怠つたことに基因するものであるから、原告自ら本件不法行為の発生につき重大な過失を犯しているので、民法第七百二十二条第二項の規定により過失相殺を主張する。

五(第三次的請求原因について)被告三進は商取引によりその代金の支払を取引の相手方である逓信局すなわち国から受けたものであつて、法律上の原因にもとずいてこれを取得し、且つこれに相当する薬品を一部納入し、未納薬品については逓信局職員と次に述べるように納入契約を締結したものであつて、何等不当利得したものではない。

六(和解契約について)仮りに以上に理由がないとしても、本件一切の解決方法として、昭和二十六年二月二十六日逓信局人事部長、厚生課長及び被告三進取締役橋野隆次の三名が保健課において未納薬品納入方について話合つた際被告三進は陳情書確認書及び未納薬品納入予定三ケ年計画書(乙第一号証から第三号証)を提出し、相手方はこれを了承し、その後右納入計画書による納入が実行困難になつたので、更に昭和二十七年二月二十九日陳情書及び五ケ年の納入計画修正書(乙第四、五号証)を同局に提出し、その諒解を得ているのであつて、原告の本訴請求には応じられない。と述べた。

被告小堺、同大塚両名訴訟代理人は本案につき、いずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち、被告小堺、同大塚がそれぞれ原告主張の振替小切手金を受領したこと(但し、右はいずれも国から受領したもので、原告から受領したものではない。)原告主張の公務員から被告小堺、同大塚に主張の日時に呼び出しがあり、被告小堺、同大塚がそれぞれ原告主張の日に主張の金額相当の薬品を代物弁済したこと被告小堺、同大塚は見積書、請求書を提出し契約書を作らなかつたこと及び薬品納入に換えて保管証を保健課に提出したこと(但し、保健課の指示によるものである。)はいずれも認めるが、その余の主張事実は否認する。

一(本件契約当事者について)(一)被告小堺、同大塚は昭和二十四年五月頃保健課と薬品納入契約をしたのであつて、原告の事務担当者としての保健課としたものではない。すなわち、被告小堺、同大塚は国の機関である保健課においてその所属公務員である二階堂らから薬品購入の申込を受けたのであつて、その契約書の作成の要否、見積書、請求書の提出等一切相手方公務員の指示に従つたものである。(1) 原告は、被告小堺、同大塚が国と取引した経験があるので、本件薬品納入契約の相手方が原告であることを承知していたものである旨を主張しているが、右取引は本件発行後施行の郵政事業特別会計規程によつたものであつて、会計法規の細部を知らない被告小堺、同大塚としてはただその官庁において当該公務員の指示に従つて手続をとつたにすぎない。(2) 原告の掲げている郵政省設置法等はいずれも本件発生後施行のものであつて、本件とは直接関係はない。その他会計法令の細部規程に関して相手方一般商人にいちいち熟知を要求するのは無理であると同時に右会計法令の細部規程は官庁に対する訓示規程にすぎない。(3) 原告が本件において提出した大半の書証によつても本件薬品納入契約の相手方が逓信局であるということができる。(4) 保健課は逓信局部内にあつて保健関係について意思決定及びその表示をする補助機関である。郵政局組織規程第十五条には保健課においては「(イ)職員の疾病、予防、健康増進に関すること(ロ)医療施設を運営及び管理すること。」と規定している。右の規定にもとずいて保健薬品を商人から購入する行為は保健事務に関連した一行為逓信局に与えられた当該年度予算の執行……と看るべきであるから法は官庁自らこれをなすことを要求しているのではなく、当然保健課をして官庁を代理させているのであつて、保健課が官庁を代理することを許容しているのである。よつて保健課は、本件薬品購入の権限を逓信局長から授権され、同局長を代理することを許容されていたといえる。本件の場合保健課が逓信局長の補助機関として同局長名義をもつて被告小堺、同大塚との間に行われた支出負担行為すなわち本件薬品の購入についてその品目、数量、価額、納期、納入場所を打合せ、見積書の提出要求、請求書の受領、代金支払等を行つたものである。なお、さきに当事者適格の抗弁に際して述べたところから本件薬品納入契約が逓信局長と被告小堺、同大塚との間でなされたものであるといえる。(二)仮りに保健課に薬品購入の権限がなく、債務負担行為を補助する権限の授与がなかつたとしても被告小堺、同大塚は次のような保健課の行為によつて保健課に逓信局長から薬品購入権限及び債務負担行為を補助する権限の授受があつたと信ずる正当の理由があるのであるから表見代理の規定によつて本件薬品納入契約は、その効果が国に及ぶのである。(1) 本件薬品納入契約以前にも同一形態の取引が行われ何等の紛争もなく決着したこと、(2) 本件薬品納入契約において被告小堺、同大塚の受領した全書類は保健課と明記されていたこと。(3) 本件薬品納入契約後作成された承認書もすべて逓信局と被告小堺、同大塚との間の書類であつて、逓信局との取引であることが確認されたこと。(4) 被告小堺、同大塚は本件薬品納入契約の前後を通じて逓信局の内務規定を探知し得なかつたこと。

(三) 仮りに本件取引の相手方が原告であつたとするならば、被告小堺、同大塚に法律行為の要素に錯誤があり、また原告主張のような重大な過失はないから本件薬品納入契約は無効である。

二(第一次的請求原因について)二階堂、肥田木らが会計法規に違反し、原告の組合資金を流用して不正に振替小切手を振出し、本件薬品代金の支払に当てたとしても、被告小堺、同大塚の関知しないところである。被告小堺、同大塚は対価として国に薬品を納入し、占有改定の方法によつて倉庫に保管したのであるから、右不正支払は逓信局すなわち国と原告との内部関係であり(国家公務員共済組合法第七条、逓信省共済組合運営規則参照)、右不正支払による損害の発生に関し被告小堺、同大塚には何等の因果関係もない。(1) 本件薬品納入契約以前被告小堺は昭和二十二年春頃から二十数回に亘り保健課と契約書を作成しないで、口頭による発註にもとずいて見積書を提出し、納品を終え請求書を提出し(或はこの両者を同時になし。)代金を同課から受領してきたのであつて、その間何等紛争は起きなかつた。本件薬品納入契約も右の契約通りの形態をとつたのでなんら怪しむところもなく契約し、納品を終え善意に代金を受領したものである。(2) 原告は取引の日時を遡及したことに関し被告小堺、同大塚に故意があつたと主張しているが、被告小堺、同大塚は薬品を購入して貰う立場にあり、国は貴重な得意先である。しかも前述のように順調に取引を運んできた関係もあつて、命ぜられるままに日付を遡及したが偶々本件薬品納入契約が国の会計年度の始めである四月頃の取引であつたため、国費予算残の過不足経理年度区分上、右のような申し出でがあつたものと考えたに過ぎないのであつて、その間被告小堺、同大塚になんらの故意も過失もない。

(3)  原告は、本件薬品納入契約に当つて被告小堺、同大塚が保健課と契約書を作成しなかつたこと及び薬品未納にも拘わらず代金を受領したことをあげて、直ちに肥田木、二階堂との間に共謀のあつたことを主張、官庁が物品購入に当つて一定金額以上の場合は契約書を作成しなければならないことは会計法規に明記してあるところであるけれども、右規定は訓示規定であるから契約書を作成しなくとも売買契約が無効となることはなく、また国の支出につき前渡金制度を会計法規は認めており、本件薬品納入契約が行われた昭和二十四年始め頃は未だ占領下で一般物資の入手も困難であり、本件薬品の一部はなお配給、並価格の両面が統制下にあり、商人の見積書にもとずき前渡金を渡し、物の入手を強行することもまた当時の事情としてはやむを得なかつたものである。

(4)  原告は被告小堺、同大塚が原告に差し入れた保管書を万一の場合に備えて作為したものであると主張するが、被告小堺、同大塚は、二階堂らの要請により右納入薬品を占有改定の方法により保管してきたのであるから右保管の事実を明らかにするために右保管書を差し入れたのである。

三(被告三進の主張の援用)

被告小堺、被告大塚は、被告三進が原告の第二次的請求原因及び原告の第三次的請求原因について述べたと同一の事実(過失相殺も含む)を援用する(但し、被告三進が原告の第二次的主張について述べた蔵舛の承認を得て保管薬品を他に処分したとの点を除く。)。

四(代物弁済契約について)

仮りに以上の主張がいずれも理由がないとしても、本件一切の解決方法として原告は被告小堺との間においては昭和二十五年八月一日、被告大塚との間においては同月十四日それぞれ被告小堺、同大塚が受領した現金相当の薬品を納入する契約をし、被告小堺はその後三回に亘り分割納入によつて完全にその契約を履行し、被告大塚は内二十四万五千百円相当の薬品を以てその契約は一部履行済みである。しかるに原告は被告小堺、同大塚の右代物弁済を承認したわけではなく、価格の点は未解決である旨主張するが、右契約はいずれも本件薬品納入契約後一年有余を経過していたため、薬効に変化をきたしたものもあり、既に統制の撤廃せられ自由購入が可能となつた点もあり、統制中の契約故便宜名目を変更したものもあつて、品目、数量、価格、納入時期等の点に亘り、原告側松永豊、蔵舛幸平、被告側小山桂史、同松本長ら協議の末、納品目、価格、数量、納入時期の決定をみ、現品を納入し検収を終えたのであつて、右は原告、被告小堺、被告大塚間において確認済みである。凡そ薬品納入の場合種類、数量、価格について双方意思の合致なくしてこれを実行に移すようなことは到底行われるものではない。原告としては契約による納入を了とし、被告小堺から確認証をとつたのであり、この書面の授受によつてすべては解決したのである。なお原告は被告小堺、被告大塚が納入した薬品単価は時価に比し高価に失する旨述べているが、右納入当時は未だ一部薬品は入手困難のものもあり、短期間に納入するためには到底正常な価格で入手できなかつた当時の事情を参酌すべきである。仮りに高価に失した薬品があつたとしても、前述のように当事者合意の結果納入したものであるばかりではなく、薬品をもつて代物弁済したものである以上、代物弁済の性質上今更右薬品の価格如何は直接問題とならない。従つて原告の本訴請求には応ずることはできないと述べた。

原告訴訟代理人は被告らの答弁に対し「一表見代理の主張については民法第百十条の規定は代理人がその権限を踰越して法律行為をした場合にのみ適用をするのであつて、基本的代理権を有しない者の行為には本条の適用はない。被告らが主張する保健所属公務員は会計法令からみて支出負担行為をなす権限すなわち被告らと国との間で物品買入契約を締結する権限を有しない、右公務員らが国によつて附与された権限は一定(国の必要とする物品購入を含まない。)の業務につき行政官庁である逓信局長を補佐する権限だけであり、この補佐行為は代理行為には該当しない。又民法第百九条、第百十二条、所定の表見代理についてもその適用をみないことは、本件の場合右両条所定の成立要件を欠いていること及び現行会計法令に支出負担行為者を厳格に規定している点からみても明らかである。二過失相殺の点は否認する。」と述べ、被告小堺、被告大塚の答弁に対し「保健課が逓信局長及び原告の意思決定ならびにその表示を補助する機関であること、官庁が自らの国家意思を決定及び表示する一手段として、その補助機関に権限の一部を委任する場合があることは認める。しかしながら、右の委任は適法なる補助機関に委任するのであつて、その関係は代理権が発生するのではなく、受任者たる補助機関が行政官庁として対外的に法律行為をなすことができる地位に置かれたいわゆる国家機関となるのである。そうして、現在の会計法令のように支出負担行為者を厳重に法定している場合においては逓信局における支出負担行為担当官は逓信局長にのみ特定されている実状をも考え合せると、被告小堺、被告大塚主張のように逓信局長が私法の適用下にある代理人を合法的に定め得るとは考えられない。」と述べた。

〈証拠省略〉

理由

(本案前の抗弁について)

一、先ず当事者適格の抗弁について判断するに、被告らは保健課すなわち国と取引したことはあるが、原告とは何の取引関係もなく、また原告と保健課とは同一性がないこと及び被告小堺は原告には当時本件取引をする権限はないことをもつて、いずれも原告の当事者適格はないと主張しているが、右主張自体から明らかなように被告らは原告主張の加害の意思(故意、過失或は共謀の事実)がないこと、原告の受けた損害について何等原因を与えていないことを積極的事実を掲げて争つているにすぎないのであつて、いわば原告の主張を否認する陳述と何等異るものでないのであるから、被告らのこの抗弁は採用できない。

二、被告三進主張の請求変更の許否について判断するに、原告は初め、被告三進の不法行為によつて虚構の薬品取引に基き前記各振替小切手金と同額の損害を受けたとの事実にもとずいて請求趣旨記載の金額とこれに対する同記載の遅延損害金の支払いを求めていたところ、昭和二十八年四月四日本件口頭弁論期日に、被告三進の不法行為によつて前掲振替小切手金に相応する被告三進保管にかかる薬品に対する原告の所有権を侵害した事実にもとずき、前掲金員の支払いを求めることにその請求原因を追加変更したことは、本件記録上明らかであるが請求の基本である薬品の取引という生活事実は前後同一であつて実質上同一原因に基く同一の利益主張と認むべきであるから、請求の基礎を変更したものとは認められない。加えて原告の請求を変更したのは、新たに攻撃、防禦の方法、証拠調を必要としない。従つて、訴訟手続を著しく遅滞させるものとは認められないから、原告のなした請求の変更は許さるべきであつて被告三進の異議は理由がない。

よつて、進んで本案について按ずるに、

(第一次的請求原因について)

一(本件薬品納入契約の成立の有無及びその当事者について)

原告は、被告らが二階堂、肥田木と共謀して薬品納入契約が原告との間に締結されていないのに拘わらず、あたかも表面上右契約が成立しているように装つて原告から右契約にもとずく薬品納入代金として前掲振替小切手を受領したと主張するところ、被告らが原告主張の小切手金を原告からその主張の日に受領したこと及び右金員受領の日までに右小切手金に相当する薬品を原告に納品しなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。よつて、まず、はたして原告及び被告ら間に前掲薬品納入契約が締結されたかどうかについて判断するに、成立に争いがない甲第十四号証の一、二、証人富田登代の証言により真正に成立したと認められる第九号証の一から六、同第十三号証の一から六、証人二階堂太郎の証言により真正に成立したと認められる甲第二号証の一、二、同第四号証の一、二、三、第六号証の一、二、同第七号証、証人松永豊の証言により真正に成立したと認められる甲第八号証、証人松永豊、同栂野善三、同富田登代、同二階堂太郎、同山内治三郎、同田辺周蔵、同田口薫二、同小山桂史、同松本長、同橋野隆次の各証言及び被告大塚順三郎本人の供述(以上各証拠のうち、以下認定に反する部分は措信しない。)に国家公務員共済組合法第七条の規定等を綜合すると、保健課(保健課長及び同係員以下同じ)は、昭和二十四年二月末日まで原告の補助機関として原告経営の薬局(薬品、材料)を原告の資金をもつて購入するにつきその事務を担当していたが、同年三月一日からはすべて国費をもつて支弁することになり、右薬局(薬品材料)の購入事務は逓信局資材部購買課の所管するところとなつたこと、前掲薬品、材料購入資金の切り替えに伴い、同年三月一日以降予算の配布があるまで、右薬品材料の購入ができなくなる虞れがあつたので、便宜、保健課長、同課医務係長、厚生課長、同課共済係長とが相談のうえ、右予算の配布があるまで、医療機関(病院、診療所等)と連絡して原告資金をもつて薬品、材料を購入し、購入年月日を同年二月末日までとする旨を了解し、この了解にもとずいて、当時保健課医務係において薬品、材料の発註事務を担当していた訴外山内治三郎が一般に薬品、材料が不足し、早急に発注手続をしなければ、一流メーカーの薬品、材料を多量に入手できない状態にあつたので、上司の決裁を後日受けることとし、医薬品及び衛生材料購入調書兼受入伝票を作成しないで(右調書は本来発注担当者が作成するもの)取り敢えず同年三、四月頃、被告らと前掲振替小切手に相当する薬品を従来の慣例に従つて契約書を作成しないで発註し、その後逓信省が郵政省、電気通信省とに組織変更されたため、右決裁を得る機会を逸し、現在に至るも右決裁を得ていないこと、山口の右発註にもとずいて、当時、同係において右薬品材料の支払事務を担当していた二階堂が被告らからそれぞれ見積書、請求書の提出を受け前例にならい立替払請求書を作成のうえ右山内の指示により薬品、材料購入代金請求書送付簿に記入せず右立替払請求書に前掲見積書、請求書を添付して厚生課共済係に送付したこと、当時保健課医務係において薬品、材料の検収、保管の事務を担当していた訴外蔵舛幸平が、前掲のように逓信省の組織変更に伴い、その下部機関である逓信局も東京郵政局と東京電気通信局に組織変更があつたため、薬品、材料の保管倉庫は整理のため混雑を極めていたので被告らに前掲薬品の納入を一時中止するよう要請し、被告らが各自右薬品を保管することにし、右薬品の保管証を二階堂に提出したこと、当時厚生課共済係において原告資金の支出及び帳薄の記帳事務を担当していた訴外富田登代は二階堂から送付された前掲書類に支出科目について共済係長肥田木の指示によつて療養の給付として払出伝票を起案し、同伝票の検査を受けないで、振替小切手振出担当係員から前掲振替小切手の振出を受けて、二階堂、山内らから依頼され、東京中央郵便局において現金化し、被告らに右現金を手渡したことが認められる。右認定に反する証人蔵舛幸平の証言は措信しない。しかして保健課が国の機関であることは当時者間に争がない。そこで、被告らは、保健課をもつて代表される国が本件契約の相手方であると主張する。そして前掲甲第二号証の一、二、同第四号証の一から三、同第六号証の一、二、同第七、八号証、原告と被告三進との間において成立に争いがない甲第一号証、同第二十二号証の一、二、原告と被告大塚との間において成立に争いがない甲第五号証、同第二十三号証、原告と被告小堺との間において成立に争いがない甲第三号証、証人松永豊の証言により真正に成立したと認められる甲第十一号証の二から五、証人二階堂太郎の証言により真正に成立したと認められる甲第十号証の二から四、成立に争いがない乙第一号証から第六号証の各宛名はいずれも保健課ないしは逓信局等となつて居り一見被告らの主張に副うように見られるが、国が支出の原因となる売買契約を締結する場合は、法令又は予算の定めるところに従い、大蔵大臣によつて承認された支出負担行為の計画に定める金額を超えない限度でこれをしなければならないという制限のほか、原告主張のように会計法、予算、決算及び会計令等の法令によつて、その方法に一定の制限を定め、その形式を法定している。しかるに本件契約は右の法令所定の方法及び形式によらないのみならず原告の資金をもつて支弁されていること、前掲逓健第四六号通達を無視してなされていることが前示認定したところから明らかであり、前掲甲第十四号証の一、二に証人松永豊、同二階堂太郎、同山内治三郎の各証言を綜合すれば、本件契約によつて得た薬品の所有権はなんらの手続をしないで原告に帰属し、右薬品による収入はすべて原告の収入となり、国の歳入としてその会計に繰り入れていないこと、保健課には当時本件契約の引き当てになるような予算の配布はなかつたこと、本件契約の担当係員である山内は当時前掲逓健第四六号通達の趣旨を充分承知しており、従つて原告の資金をもつて薬品を購入する場合と国がする場合とではその購入手続を異にするものであることも了知していたこと、本件契約の支払事務を担当した二階堂は国が薬品を購入する場合の担当部課を充分承知していたことすなわち山内及び二階堂は本件契約の当事者は国ではなく、原告であることを了知していたものと推認され、又被告らの本件契約を担当した職員らはその以前から長期にわたり原告組合に出入し、引き続き薬品を納入しており、本件契約の相手方が国ではなく、原告であることを了知していたことが窺われ、現に被告三進及び被告小堺は国と取引する場合には前記法令所定の方法及び形式に従つているのであつて原告と被告三進との間において成立に争いなき甲第十五ないし十八号証、証人山本正雄の証言によると、被告三進は昭和二十五年三月二十日国に対し救急函三百五十個を四十一万三千円とする随意見積書を提出し逓信局資材部においてこれを購入する内部決裁を得た後、契約担当公務員(支出負担行為担当官)である逓信局長と同年三月十日物品買入契約を締結し、その後物品を完納し、物品検査に合格したので、同年三月二十八日物品代金請求書を国に提出し、所定の手続を経て支出官から小切手を受領していることが認められ、又原告と被告小堺、同大塚との間において成立に争いなき甲第十九号証、成立に争いなき甲第二十号証、原告と被告小堺との間において成立に争いなき甲第二十一号証の二、証人山本正雄の証言により真正に成立したと認められる甲第二十一号証の一、三、同証人の証言によると、被告小堺は、昭和二十四年九月十九日国に対しミケゾール五〇〇グラム見積額八万五千円の随意見積書を提出し、逓信局資材部において右物品を購入することに内定したので注文伝票(この場合には予算、決算及び会計令第六十八条の規定による契約書は作製されない。同令第七十条参照)をもつて所定納期までに納入する誓約をなしたうえ物品納入完了後支出官発行名義の小切手を受領していることが認められる。右認定に反する小山桂史、同橋野隆次、同松本長、同二階堂太郎、同山内治三郎の各証言及び被告大塚順三郎本人の供述は措信できない。以上認定事実と冒頭に認定した保健課が原告の機関であつて、原告経営の薬局(薬品、材料)の購入事務を担当していた事実とを併せ考えると、本件契約は原告と被告らとの間で締結されたものであるということができる、前記書証の宛名の記載をもつて前認定の事実を覆すことはできない、他に右認定を左右する証拠はないから、被告らの本件契約の相手方が国であるという主張は採用できない。従つて被告らが抗弁として主張する本件契約の相手方に要素の錯誤があつたとの主張は以上認定事実からみて採用することはできない。又前記認定のように本件契約は、保健課が原告の機関として被告らと締結し被告らもこれを了知していたものである以上被告らの表見代理の主張も理由がない。

二(共謀の事実の有無について)

共謀の点について按ずるに、原告主張のように、本件契約は発註、支払、現金支出の各手続について正規の手続を欠いていることは既述のとおりであるけれども、(イ)冒頭認定のように、本件契約は、その資金切り換えに伴う応急措置として行われたものであつて、発註者山内は当時の慣例に従い契約書を作成しないで、後日上司の決裁を得る予定のもとに発註したが、前述のような事情でその機会を失したこと、二階堂は前例にならない、山内の指示に従い支払事務を処理したこと、前掲見積書、請求書の日付遡及の点は事前に厚生課長、保健課長らの間において了解がなされていたこと薬品、材料の保管係担当者蔵舛幸平が被告らに納入の一時中止を申入れ、二階堂が被告らから保管証の提出を受け、その保管にまかせていたことが認められる。(ロ)被告らから代金受領印の押印を受けず、また受領証の交付を受けなかつたこと及び現金支出手続に違法があつたことについては二階堂、肥田木の職務上の義務違反があるのにすぎないのであつて、その間共謀の事実を認めるに足る証拠はない。(ハ)証人山内治三郎の証言によると当時薬品代価の関係で入手困難な薬品名を見積書に記載したが、実際は右見積書の薬品以外の薬品を購入する予定であつて薬品名の記載について故意がなかつたことが認められる。従つて原告が共謀の事実として掲げている(一)の事実及び(二)の事実のうち検収を経ていない事実代金の受領を押印しない事実、見積書、請求書の日付が出鱈目である事実及び購入薬品名を統制品とそうでないものとに分離している事実は、いずれも共謀の事実を認定する資料となすことはできない。原告は共謀を推測せしめる事実として(ニ)被告らが本件契約にもとずく代金の請求を数ケ月も遅延しているに拘らずなんらの苦情も申し出なかつた旨の事実を掲げているが、証人山内治三郎の証言によれば、右代金支払が一、二ケ月遅延するのは普通であるが、被告らからその支払方の督促を受けていることが認められるから、右事実をもつて共謀の事実を認定することはできない。(ホ)原告は共謀を推測せしめる事実として被告らは正規の手続によつて薬品を納入した経験を有するに拘わらず、前掲のように納品の検収を受けないしまた代金受領の際受領印を押印しなかつた事実及び本件不正事件を発見された当時被告らにおいて保存していると称していた薬品が皆無であつた事実(この点については第二次的請求原因を判断するに際し述べる)を掲げているが、前掲甲第十号証の二から四、同第十一号証の二から四、証人二階堂太郎の証言によつて真正に成立したと認められる甲第十号証の一、同第十二号証、公文書であるから真正に成立したものと推定される甲第十一号証の一に、証人松永豊の証言によれば、被告小堺は昭和二十四年二月頃本件契約と同じような見積書、請求書を提出して薬品納入をなし、被告大塚が被告小堺の代理人として代金受領印を押印していることこの取引においては発註納入代金支払についてすべて正規の手続を践んでいることが認められるけれども、本件薬品納入につき検収を得なかつた事情は前述したような事情が存し、代金の受領印の押印のないことについては二階堂の職務上の義務違反を問うことはできるが共謀の事実を認定することはできない。しかして、右甲第十号証の一による上司の決裁手続、同第十一号証の一の現金支出手続、同号証の二の立替払請求書はいずれも原告内部において処理されるものであつて、特段の事情がない限り被告らの関知するところは認められないのみならず、却つて、冒頭認定したような経緯にもとずく本件契約をもつて右手続を経由していないからといつて従来の経験の有無によつて直ちに共謀の事実を推認するわけにはいかない。

以上のように、原告が掲げている共謀の事実はいずれも認められないから、この点の主張も採用できない。

四(過失について)

過失の点について考えるに、二階堂、肥田木がその権限を濫用して原告に対して不正行為を働いたとの証拠がなく、また、被告らの過失を認めるに足る証拠のない本件については、被告らについて過失の責を問うすべもないから、この主張もまた採用できない。

以上認定したように、原告の第一次請求原因については、その理由がないというほかはない。

(第二次的請求原因及び代物弁済の抗弁について)

原告は、被告らが原告所有の薬品を保管中勝手に他に処分し、原告の右薬品に対する所有権を侵害し、その代価相当額の損害を原告に与えたと主張するが、前掲甲第一号証、同第三号証、同第五号証、成立に争いがない乙第一号証から第六号証に証人二階堂太郎、同小山桂史、同橋野隆次、同松本長の各証言を綜合すれば、被告らは保健課にその保管薬品の引き取り方を要請したが保健課はその引取をしないので倉庫の整理上やむを得ず即時補給可能のもの等一部他に処分したこと、その後原告と被告ら間において保管薬品及び処分薬品に関し争いを生じ交渉を重ねた結果、本件薬品納入に関する一切の解決方法として被告らは原告に未納薬品があることの確認書を差し入れ、代物弁済契約類似の和解契約を原告、被告ら間でなしていることが認められるから、たとえ被告らの右薬品処分行為をもつて被告らの故意、過失を推測し得られるとしても、右和解契約の成立により、右契約の履行を求めるならば格別、もはや、被告らに対し不法行為上の責任を問うことはできないと解するから、この主張もまた採用するに由ない。

(第三次的請求原因)

原告は、仮りに本件契約の当事者が国であるとすれば、被告らは法律上の原因がないのに拘わらず、前掲振替小切手金を受領したものであるから不当利得の返還を求めると主張しているが、前掲認定したように、本件契約の当事者は原告であつて、被告らは契約にもとずく代金の支払を受けたものであるから、右主張自体理由がない。

(結論)

以上の次第であるから、原告の被告らに対する不法行為にもとずく損害賠償請求及び不当利得にもとずく利得返還請求は、いずれも、その理由がない。

よつて原告の本訴請求は全部棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄 駒田駿太郎 荒井徳次郎)

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